統計検定準1級 発展編 要点まとめノート【第27〜32章】

この記事の役割

発展編(第27〜32章)の復習ノートです。連載の各回が「なぜそうなるのか」を実験しながら追う記事なのに対し、こちらは押さえるべきことだけを1ページに集めたものです。詳しい導出や検算は各回へのリンクから読んでください。

この編は6章あって範囲が広く、内容の性質もばらばらです。 一続きの理論として読むより、章ごとに独立した道具箱として扱うほうが早いと思います。

この範囲の全体像

ここまでの章は、多かれ少なかれ「データが揃っていて、モデルは決まっていて、答えは式で書ける」という前提の上にありました。発展編の6章は、その前提が1つずつ壊れる話です。

壊れる前提代わりに何をするか
27 時系列解析データの行に順序がない定常性を仮定して、時間方向のずらしを繰り返し観測の代わりにする
28 分割表変数が量的である度数を数え、期待度数からのズレを測る
29 不完全データデータが揃っている欠測の仕組みを仮定して、観測された情報から尤度を書く
30 モデル選択モデルが決まっている予測誤差の推定量(AIC)や交差検証で候補を順位づける
31 ベイズ法パラメータは定数であるパラメータを確率変数として扱い、事後分布を求める
32 シミュレーション答えが式で書ける乱数で近似する

全体を貫く筋を1つ挙げるなら、これです。

「知らないもの」をどう扱うかの技術が並んでいる。

第27章は「隣同士が相関していること」、第29章は「見えていない値」、第30章は「どのモデルが正しいか」、第31章は「パラメータの値」、第32章は「解析的に解けない積分」。どれも「分からない部分をどう処理するか」の作法です。

そしてこの編には、章をまたいで何度も出てくる構造が3つあります。ここを掴むと6章がばらばらに見えなくなります。

構造1:同じデータで2回使うと壊れる

現れ方
30変数を選んだ同じデータで係数を推定すると勝者の呪いが起きる(真0.25の係数が0.513=真の値の2.05倍に膨らむ)
30選択後の R2R^2 は自由度調整済みでも 0.145(30本覗いたことを調整式が知らない)
25(既習)見かけの誤判別率が楽観側に偏る(第25回

「データを見て決めた」という操作が、あとの推論を汚すという一点が形を変えて出てきます。

構造2:知らないパラメータを1点に決め打つと不確実性を数え落とす

現れ方
29平均代入・回帰代入は「埋めた値も推定値である」ことを忘れるので被覆率が 81.5% に落ちる
29だから多重代入法は mm 通り埋めて代入間分散 BB を足す
31経験ベイズは超パラメータを1点に固定するので V[E(θa,b)]V[E(\theta \mid a,b)] の項(7.92%)が消える
7(既習)σ2\sigma^2 を最尤推定値で固定して zz を使うと、ν=3\nu=3 で区間が 38.4% 短くなる(それが t分布の存在理由)

t分布・多重代入・階層ベイズは、どれも「消したいパラメータを積分する」という同じ操作でした。詳しくは第33回の周辺化の節にまとめてあります。

構造3:nn を増やしても救われないものがある

現れ方
27見せかけの回帰は nn を増やすほど t\lvert t \rvert が育つ(集めるほど間違いに自信がつく)
28交絡があるとき nn を増やすと、逆向きの結論が p1053p \approx 10^{-53} で出る
30AIC は nn を増やしても真のモデルを当てる確率が上がらない(この設定では 0.425 で飽和。止まる高さは候補の作り方で決まり普遍定数ではない
31リンドレーのパラドックス:p値を 0.01 に固定したまま nn を増やすとベイズファクターが H0H_0 支持に反転する

「大標本なら安心」が成り立たない場面が集中しているのがこの編の特徴です。

章と回の対応

章タイトル対応する回
第27章時系列解析第29回
第28章分割表第30回
第29章不完全データの統計処理第31回
第30章モデル選択第32回
第31章ベイズ法第33回
第32章シミュレーション第34回

各章の検算の過程はリンク先の記事にあります。

なお公開順と章の順が入れ替わっています。第30章(モデル選択)を第32回、第31章(ベイズ法)を第33回に置いたのは、モデル選択が第16章の「決定係数は無意味な変数でも増える」の解決編にあたるため、線形モデル編を終えてから読むほうが通りがよいと判断したためです。

用語集

言葉で説明できるかを先に確認する用です。章ごとに分けてあります。

第27章 時系列解析

用語記号意味
弱定常①平均 ②分散 ③ラグ kk の自己共分散が時刻によらない。このノートの「定常」はこれ
ホワイトノイズete_t平均0・分散一定・無相関。時系列の「何も起きていない」状態
自己相関関数ACFラグ kk の自己相関を並べた関数。単回帰の傾きに相当
偏自己相関関数PACF間の期の影響を除いた自己相関。重回帰の偏回帰係数に相当
コレログラムACF・PACF を棒グラフにした図
自己回帰モデルAR(pp)過去の自分の値で現在を説明する。影響が無限に伝わる
移動平均モデルMA(qq)過去のノイズの加重和。箱が q+1q+1 個ずつ重なるだけ
ARIMA(p,d,q)(p,d,q)dd 回差分を取ってから ARMA を当てる
単位根φ=1\varphi=1差分を取らないと定常にならない状態。特性方程式の根が1
ラグ演算子LLLxt=xt1Lx_t = x_{t-1} と書く記号。多項式として扱える
反転可能性θ<1\lvert\theta\rvert<1MA を AR(\infty) に書き換えられる条件。AR の定常条件と対になる
見せかけの回帰無関係な非定常系列間で有意な回帰が出る現象
過剰差分必要でないのに差分を取ること。(1φ)/2-(1-\varphi)/2 の負の自己相関を作る
共和分個々は単位根だが線形結合が定常になる関係
DF検定・ADF検定単位根の有無を検定する。専用の臨界値を使う
Ljung-Box 検定残差の自己相関をまとめて検定する(モデルの十分性の確認)

第28章 分割表

用語記号意味
期待度数EijE_{ij}行合計 × 列合計 ÷ 総計。行合計・列合計は観測値と完全に一致する
リスク差p1p0p_1-p_0差。単独で意味が確定する唯一の指標。件数に直せる
リスク比p1/p0p_1/p_0比。ベースを添えないと大きさが分からない
オッズp/(1p)p/(1-p)「起きた : 起きなかった」の比
オッズ比ad/bcad/bcオッズの比。行と列の入れ替えに対して対称
フィッシャーの正確検定周辺合計を固定して全パターンを数え上げる。分布は超幾何
イエーツの連続性補正OE\lvert O-E \rvert から 0.5 を引く。現在は推奨されない
マクネマー検定(bc)2/(b+c)(b-c)^2/(b+c)対応のある2×2表。一致ペアは完全に無情報
シンプソンのパラドックス層別と全体で結論が逆転する。正体は重みが逆向きの加重平均
交絡因子群の割り付けと結果の両方に関係する変数
マンテル・ヘンツェル法層を通した共通オッズ比を推定する
ピアソン残差(OE)/E(O-E)/\sqrt{E}符号は残るが分散が1に届かない
調整済み残差(OE)/E(1pi)(1pj)(O-E)/\sqrt{E(1-p_i)(1-p_j)}。分散が1で標準正規に一致
対数線形モデルセル度数の対数を行効果・列効果・交互作用の和で表す。交互作用ゼロ=独立

第29章 不完全データの統計処理

用語記号意味
MCAR欠測確率が何にも依存しない。検定できる
MAR欠測確率が観測されている変数で決まる
MNAR欠測確率が欠測している値そのもので決まる。MAR と原理的に区別できない
リストワイズ削除欠測がある行を丸ごと捨てる。完全ケース分析
平均代入平均で埋める。絶対にやってはいけない(分散が縮む)
回帰代入回帰予測値で埋める。相関を過大にする
確率的回帰代入回帰予測値に乱数の誤差を足す。多重代入の1回分に相当
EMアルゴリズムE ステップと M ステップを繰り返す反復法。標準誤差は出ない
多重代入法MImm 通り埋めて結果を統合する。点推定と標準誤差には m=5m=5 で十分(λ\lambda の報告には足りない)
ルービンの公式T=Uˉ+(1+1/m)BT=\bar U+(1+1/m)B代入内分散 Uˉ\bar U と代入間分散 BB に分ける
完全情報最尤法FIML埋めずに、観測されていない変数を尤度から積分して消す
感度分析仮定(δ\delta)を振って結論がどこまで動くかを幅で報告する
被覆率95%信頼区間が本当に真の値を含む割合

第30章 モデル選択

用語記号意味
赤池情報量規準AIC =2logL+2k=-2\log L+2k新データでの予測誤差の推定量。小さいほどよい
ベイズ情報量規準BIC =2logL+klogn=-2\log L+k\log nn8n \geq 8 で AIC より厳しい。真のモデルを当てる性質を持つ
AICcAIC +2k(k+1)/(nk1)+\,2k(k+1)/(n-k-1)小標本補正。n/k40n/k \gtrsim 40 は安全側の慣行で、実際に差が出るのは n/kn/k が10を切る辺りから
Mallows の CpC_pRSSp/σ^full2n+2p\mathrm{RSS}_p/\hat\sigma^2_{\text{full}}-n+2pσ2\sigma^2 を固定した AIC の回帰版。真の平均構造を含んでいれば E[Cp]pE[C_p]\approx p
一貫性nn \to \infty で真のモデルを選ぶ性質。BIC が持つ
効率性予測誤差を最小にする性質。AIC が持つ
交差検証法CVデータを分けて予測誤差を測る。K-fold は分割の乱数に依存する
一つ抜き交差検証LOO1個ずつ抜く。線形回帰では PRESS の式で一発
PRESS(ei/(1hii))2\sum\bigl(e_i/(1-h_{ii})\bigr)^2LOO の残差平方和。hiih_{ii}第17回のてこ比
ステップワイズ法変数を1本ずつ入れる/抜く貪欲法。推論を壊す
勝者の呪い選ばれた変数の係数が過大に報告される現象

第31章 ベイズ法

用語記号意味
事前分布 / 事後分布π(θ)\pi(\theta) / π(θx)\pi(\theta \mid x)データを見る前 / 後の考え。事後 \propto 事前 ×\times 尤度
共役事前分布事後分布が同じ族に戻る事前分布。尤度の族との関係で決まる
MAP事後分布の山の頂点。事前が平らなら最尤推定と一致
信用区間θ\theta そのものの確率で語る区間。信頼区間とは別物
HPD区間密度が高い順に集めた区間。幅が最小になる
ジェフリーズ事前分布I(θ)\propto\sqrt{I(\theta)}尺度を変えても結論が変わらない事前分布
不適切事前分布積分が発散する事前分布。事後分布が壊れることがある
MCMCMarkov chain(歩き方)+ Monte Carlo(数え方)の合成語
提案分布qq次の候補をどう出すか
詳細釣り合い2点間の流れが釣り合う条件。定常分布の十分条件
バーンイン初期値の影響が残る期間。捨てる
有効サンプル数ESS独立サンプルなら何個分か
Gelman-Rubin 統計量R^\hat R鎖間と鎖内のばらつきの比。1.01 未満が目安
ベイズファクターBF10BF_{10}2つの仮説の予測力の比。H0H_0 を積極的に支持できる
階層ベイズ / 経験ベイズ超パラメータを分布として扱う / 1点に固定する
局外パラメータ / 周辺化興味のないパラメータ / それを積分で消す操作

第32章 シミュレーション

用語記号意味
逆関数法X=F1(U)X=F^{-1}(U)一様乱数を累積分布関数の逆関数に通す。1個の乱数で1個の標本
確率積分変換F(X)U(0,1)F(X)\sim U(0,1)逆関数法の逆向き。Q-Qプロットとp値の正体
棄却法覆いから引いて、はみ出したら捨てる。高次元で崩壊する
提案分布の定数c=maxf/gc=\max f/g覆いの高さ。覆いが全域を覆うときだけ採択率が厳密に 1/c1/c
ボックス・ミュラー法一様乱数2個から正規乱数2個を作る。変数変換の応用
モンテカルロ法積分・期待値・確率を標本平均で近似する
重点サンプリング法提案分布から引いて f/gf/g の重みで補正する
指数傾斜gtetxf(x)g_t \propto e^{tx}f(x)分布を右へずらす標準的な提案分布の作り方
分散減少法対照変量法(=負の相関法)・層別サンプリング・制御変量法・重点サンプリング
ブートストラップ法標本から復元抽出して統計量の分布を作る
ジャックナイフ法1個ずつ抜いてばらつきを測る
擬似乱数決定的な計算で作る乱数。シードで再現できる

記号の注意λ\lambda がこの編で3通りに使われます。第29章では欠測に起因する分散の割合、第30章では正則化パラメータ第19回から)、そして確率過程編では到着率でした。BB も第29章の代入間分散と第31章のベイズの R^\hat R の鎖間分散で別物です(どちらも「グループ間のばらつき」なので発想は近いですが、式は別です)。

第27章 時系列解析

定常性がすべての土台

なぜ定常性から始まるのか。定常なら「時間方向にずらす」ことが繰り返し観測の代わりになるからです。非定常だと時刻ごとに別のルールなので、何期集めても「同じものの繰り返し」になりません。

弱定常の定義は3つです。

  1. 平均が時刻によらない
  2. 分散が時刻によらない
  3. ラグ kk の自己共分散が時刻によらない

ランダムウォークは①を満たします(平均は常に0)。それでも非定常です。「非定常=トレンドがある」と覚えると間違えます。崩れているのは②と③です。

条件③の読み方にコツがあります。自己共分散を表にして、横に読むと一定、縦に読むと φk\varphi^k で減衰するのが定常。単位根では横が時刻とともに変わり、縦が減衰しません。

φ=1\varphi=1 は崖ではなく坂

φ\varphi が1に近づくと何が起きるか。落ち着き先の標準偏差 1/1φ21/\sqrt{1-\varphi^2} が発散します。ただしφ=0.999\varphi=0.999φ=1\varphi=1 の間に断絶があるわけではありませんφ=0.5\varphi=0.5 の時点で既に見せかけの回帰が 12.5% の確率で起きます。

「単位根」の名の由来は、ラグ演算子で (1φL)xt=et(1-\varphi L)x_t = e_t と書いたときの特性方程式の根が1だからです。定常条件は「根が単位円の外」。

見せかけの回帰の正体は標準誤差

ここが第29回でいちばん誤解を正した部分です。

「無関係な系列に相関が生まれる」のではありません。 傾き β^\hat\beta の符号は正 50.6% / 負 49.4% のコイン投げで、平均は 0.0008-0.0008。相関そのものは生まれていません。

起きているのは2つです。

何が起きるか実測
標準誤差が過小になる真のばらつきの 6.22分の1 しか報告しない
β^\hat\beta に一致性がないnn を20倍にしても標準偏差が 0.63 のまま縮まない

だから標準誤差を直すだけでは足りず、差分が必要になります。

そしてなぜ nn を増やすと悪化するのかt\lvert t \rvertn\sqrt{n} で育つからです。定常なら有効標本サイズ neff=n(1φ)/(1+φ)n_{\text{eff}} = n(1-\varphi)/(1+\varphi) で情報の増え方が測れますが、φ=1\varphi=1 はこの式の適用域外で、実際は V[xˉ]V[\bar x]nn に比例して増えます

正規性はまったく無関係でした。ノイズをコイン投げ・t(3)t(3)・一様に変えても棄却率は 75〜77% で同じ。効くのは「累積和にした」構造だけです。

目に見える形は残差の自己相関です。非定常の回帰で 0.858(1組の実現値)、ダービン・ワトソン比は5000回の平均で 0.171。第17回で扱ったダービン・ワトソン比の極端版として現れます。

AR と MA の見分け方

AR(pp)MA(qq)
何を使うか過去の自分の値過去のノイズ
影響の伝わり方鎖なので無限に伝わる箱が q+1q+1 個ずつ重なるだけ
ACF減衰するラグ qq で切れる
PACFラグ pp で切れる減衰する

覚え方は「ACF が切れたら MA、PACF が切れたら AR」。頭文字が逆になるのが引っかけです(PACF ↔ pp と覚えると逆になります)。

なぜこうなるのか。ACF は単回帰の傾き、PACF は重回帰の偏回帰係数(間の期を固定する)です。AR(1) で ACF のラグ2が 0.49 になるのは 0.0022+0.6999×0.69840.0022 + 0.6999 \times 0.6984 という遠回りの経路で、直接効果はゼロ。だから PACF では消えます。

層別で見ると分かりやすく、全体では傾き 0.489 だが xt1x_{t-1} を固定した各層は水平(+0.009+0.009+0.023+0.023+0.019+0.019)。第28章のシンプソンのパラドックスと同型です。

MA で ACF が切れるのは、共分散が共有ノイズを数える計算なので、箱が重ならないラグで厳密にゼロになるからです。

本質は道具とモデルの「言語」が一致した側だけ切れるということです。PACF は過去の自分の言葉、ACF はノイズの言葉。

単位根検定

DF検定の中身は単純で、Δxt=ρxt1+et\Delta x_t = \rho x_{t-1} + e_tρ=0\rho=0 を片側検定するだけです。

専用の臨界値が必要な理由は、帰無仮説のもとで xt1x_{t-1} が非定常なので tt 分布に従わないこと。tt 表を使うと誤り率が 45.7% になります(臨界値は 2.87-2.87 付近)。

弱点は検出力です。φ=0.95\varphi=0.95n=200n=200 で見抜けるのは 34.5% だけ(n=500n=500 なら 97.4%)。

ADF が必要になるのは、差分に負の MA 成分があるときです。θ=0.8\theta=-0.8 で DF は 99.8% 誤判定します。

差分をいつ取るか

φ=1\varphi=1 のときだけです。φ<1\varphi<1 に使うと (1φ)/2-(1-\varphi)/2 の負の自己相関を作ってしまいます(過剰差分)。

そして確定的トレンドと確率的トレンド(単位根)は見た目で区別できません(自己相関 0.922 vs 0.943)。前者は直線を引いて除去、後者は差分。処方が逆なので判定が必要です。

実務での効き方

ブログのアクセス数に当てはめたときの改善幅がこうでした。

施策予測誤差の改善
季節性(曜日ダミー)33%-33\%
回帰化・対数変換15%-15\%
AR(1) を足す1.7%-1.7\%

凝ったモデルより曜日と対数変換です。季節差分は過剰でした(ラグ7が 0.415-0.415 に反転)。

第29回

第28章 分割表

適合度検定との違いは期待度数の作り方だけ

統計量の式は (OE)2/E\sum (O-E)^2/Eまったく同じです。違いは1点。

適合度検定(第14回独立性の検定
期待度数仮説が与える周辺合計から作る
自由度k1mk-1-m(r1)(c1)(r-1)(c-1)

期待度数は「行合計 × 列合計 ÷ 総計」。ここで大事なのは、この作り方だと行合計・列合計は観測値と完全に一致することです。だからズレていいのは表の内側だけ。それが自由度 (r1)(c1)(r-1)(c-1) の意味で、1-1 は「最後の行と列は引き算で出るから数えない」と読めます。

2×2表なら自由度1で、4セルすべて OE\lvert O-E \rvert が同じ値になります(市松模様)。自由度1が目に見える形です。

3つの指標は「同じデータで結論が変わる」

指標性質
リスク差p1p0p_1-p_0単独で意味が確定する唯一の指標。 件数に直せるので報告に向く
リスク比p1/p0p_1/p_0ベースを添えないと大きさが分からない
オッズ比ad/bcad/bc行と列の入れ替えに対して対称

関係式は OR=RR×1p01p1\text{OR} = \text{RR} \times \dfrac{1-p_0}{1-p_1} です。ずれの上限は大きいほうの確率 p1p_1 だけで決まり 1/(1p1)1/(1-p_1)p10.10p_1 \leq 0.10 なら 11.1% 以内)。

結論が逆転する例:15.0%→22.5% と 60.0%→75.0% を比べると、リスク比は前者が大(1.50 > 1.25)なのに、オッズ比は後者が大(2.00 > 1.65)になります。

なぜケース・コントロール研究ではオッズ比だけ使えるのか

結果で群を分けるので確率そのものが計算できません。それでもオッズ比だけは抽出率 f1,f0f_1, f_0 が約分で消えるので不変です(4通りの抽出すべてで 2.0638297872 と一致)。

理由は掛け算と割り算だけでできているから。リスク比は分母が cf1+df0cf_1 + df_0 という足し算なので定数倍が消えません。

シンプソンのパラドックスの正体は加重平均

層別では全部Aが勝つのに、合計ではBが17ポイント勝つ、という現象です。正体は加重平均で、重みがAとBで正反対になっているだけです。

大事なのは2点あります。

①有意性は交絡を直しません。 逆向きの結論が X2=237X^2 = 237p1053p \approx 10^{-53} で出ます。nn を増やすと間違いに自信がつくだけです。

②交絡の条件は2つ揃う必要があります。 ①群の割り付けと関係する ②結果とも関係する。片方だけでは結論は逆転しません。ランダム化は①を切る操作です。

直し方は標準化(重みを揃える)か、マンテル・ヘンツェル法 (aidi/ni)÷(bici/ni)\sum (a_id_i/n_i) \div \sum (b_ic_i/n_i) です(aa は「曝露あり×イベントあり」、dd は「曝露なし×イベントなし」。どちらの群を曝露側に取るかで分子と分母が入れ替わるので、第30回の表とは向きが逆に見えます)。

層別すべきかは統計ではなく因果の問題です。割り付け前から存在する性質なら層別する。割り付け後に起きたことで層別すると、効果の経路を潰します。

なお注意点として、均等割り付けでもオッズ比は層別値と一致しません(共通2.000 → 合計1.451)。率とリスク差は加重平均で保たれるのにオッズ比は保たれない、という性質(非崩壊性)です。向きは変わらないので交絡とは別問題です。

マクネマー検定の見分け方

対応のある2×2表の検定で、X2=(bc)2/(b+c)X^2 = (b-c)^2/(b+c)一致ペア a,da, d は完全に無情報です(aa を20→40に変えても X2X^2 は 13.3333 のまま)。

見分け方は機械的です。

1人が表に何回登場するかを数える。 2回登場(測定回数が表の合計の2倍)→ マクネマー、1回(測定回数=合計)→ ふつうの分割表。

中身は不一致ペアに対する符号検定です。発想は対応のあるt検定と同じ(個人差を消す)ですが、差が3値しかなく、差0の人が捨てられる点が違います。

独立性の検定を誤用すると、p値は小さくなりますが(0.000049)別の問いに答えています(個人の一貫性を測ってしまう)。

残差は3種類あって使えるのは1つ

問題
セルの寄与(OE)2/E(O-E)^2/E合計が X2X^2 になるが、2乗なので多い/少ないが消える
ピアソン残差(OE)/E(O-E)/\sqrt{E}符号は残るが分散が1に届かない(16セルで平均 0.5625)
調整済み残差(OE)/E(1pi)(1pj)(O-E)/\sqrt{E(1-p_i)(1-p_j)}分散が 1.0000 で標準正規に一致。これを使う

なぜ補正が必要かというと、期待度数を周辺合計から推定した分だけ分散が縮んでいるので、それを割り戻しているのです。

イエーツの補正と対数線形モデル

イエーツの連続性補正OE\lvert O-E \rvert から 0.5 を引く操作で、0.5 の由来は「幅1の区間の半分」です。現在は推奨されません(保守的すぎる)。存在と理由を知っていれば十分です。

対数線形モデルはセル度数の対数を行効果・列効果・交互作用の和で表すもので、交互作用ゼロ=独立になります。G2=2Olog(O/E)G^2 = 2\sum O\log(O/E) が尤度比統計量で、ロジスティック回帰と等価な形に書き直せます(第18回の接続)。

第30回

第29章 不完全データの統計処理

3分類は「欠測確率が何で決まるか」

分類欠測確率が依存するもの
MCAR何にも依存しない測定機器がランダムに故障した
MAR観測されている変数若い人が年収欄を飛ばす(年齢は観測済み)
MNAR欠測している値そのもの年収が高い人が年収欄を飛ばす

形式的には P(RYobs,Ymis)P(R \mid Y_{\text{obs}}, Y_{\text{mis}}) が何に依存するかで定義されます。

決定的に重要な非対称性が1つあります。

MCAR は検定できるが、MAR と MNAR は原理的に区別できない。

理由は単純で、MNAR の情報は欠測している値の中にあり、それは定義上手元にないからです。同じ観測データを生む「MAR の世界」と「MNAR の世界」を構成できてしまいます。だからMAR は検定して確かめるものではなく、仮定して明示するものです。

削除と代入の何が問題か

方法何が起きるか
リストワイズ削除推定したい量による。 MAR+削除で回帰の傾きは 0.0004-0.0004 しか外さないが、平均は +39.68+39.68 も外す。効率の低下 2000/1400\sqrt{2000/1400} 倍は MCAR の場合の代償
平均代入被覆率が 81.5% に落ちる。 標準偏差が 0.7\sqrt{0.7} 倍に縮み、相関が薄まる
回帰代入相関を過大にする。表に数字を書くと分散がゼロになる
確率的回帰代入誤差を足すので分散は保たれる。多重代入の1回分に相当

この章でいちばん効いた言い方がこれです。

表に数字を書いた瞬間、その値の不確実性がゼロになる。

平均代入も回帰代入も、埋めた値を「観測されたのと同じ確かさ」として扱ってしまいます。だから見た目の分散が縮み、信頼区間が短くなり、被覆率が落ちる。削除のほうがまだ正直です(捨てたことが nn に現れる)。

EM アルゴリズム

E ステップ(欠測部分の期待値を計算)と M ステップ(それを使って最尤推定)を繰り返します。

コツは E ステップで2乗の期待値を忘れないことです。

E[y2x]=(E[yx])2+σyx2E[y^2 \mid x] = \bigl(E[y \mid x]\bigr)^2 + \sigma^2_{y \mid x}

分散を足す項を落とすと、それが回帰代入と同じ間違い(分散が縮む)になります。

EM は最尤推定値に一致します(実測で12桁一致)。弱点は標準誤差が出ないことで、別途2階微分かブートストラップが必要です。これが FIML や多重代入が主流になった理由です。

多重代入法とルービンの公式

mm 通り埋めて、それぞれで「いつもの分析」をして、結果を統合します。

T=Uˉ+(1+1m)BT = \bar U + \left(1+\frac{1}{m}\right)B
記号意味
Uˉ\bar U(代入内分散)各回のデータセット内での分散の平均
BB(代入間分散)mm 個の推定値どうしのばらつき
(1+1/m)(1+1/m)mm が有限であることの補正

mm 回埋める理由は点推定の精度ではなく標準誤差です。BB を測るために複数回必要になります。m=5m=5 で実用上十分です。

実務上の強みは段階2で「いつもの分析」がそのまま使えることです。欠測用の手法を覚え直す必要がありません。

なお λ=(1+1/m)B/T\lambda = (1+1/m)B/T は「全分散のうち欠測由来の割合」ですが、FMI(欠測情報割合)の大標本近似で別物です(実測で 7.35% vs 7.60%)。しかも m=5m=5 ではばらつきが大きく(800回の5〜95%点で 3.0%〜28.1%)、1標本の値は信用しすぎないほうがよいです。

FIML と感度分析

FIML は欠測を埋めず、観測されていない変数を尤度から積分して消します。EM と同じ推定値になり、違いは「反復で解くか数値最適化で直接解くか」だけです。

MNAR に対する唯一の誠実な対応は感度分析です。δ\delta(無回答者が回答者とどれだけ違うか)を振って、「δ\delta がこの範囲なら結論はこの範囲」と幅で報告します。グラフの傾き自体が情報で、緩やかなら結論が頑健、急なら仮定に強く依存しています。

MNAR を検定可能にする唯一の道は無回答者の一部を追跡して回収することです。δ\delta を実測値に置き換えられます。

そして実務でいちばん効くのは解析より設計でした。区間で聞く、予測変数を一緒に集める、追跡調査をする。

第31回

第30章 モデル選択

AIC の 2k2k はどこから来たのか

2logL-2\log L2k2k を足す、あの 22 の出どころです。

期待値
訓練データの残差平方和(nk)σ2(n-k)\sigma^2
同じ xx で観測しなおした残差平方和(n+k)σ2(n+k)\sigma^2
2kσ22k\sigma^2

22(+k)(k)(+k)-(-k) であって、2logL-2\log L2-2 ではありません。 ここは混同しやすい点です。

バイアス項 (IH)μ2\lVert (I-H)\mu \rVert^2 は両辺で同一なので消えます。だからモデルが誤特定でも 2kσ22k\sigma^2 は成立します。20万回のシミュレーションで検証済み(n=40n=40, σ=1.5\sigma=1.5, k=4k=4 → 80.970 vs 81、99.032 vs 99、差 18.062 vs 18)。

AIC の読み方の注意

  • AIC は新データでの予測誤差(悪さ)の推定量。小さいほどよい
  • 絶対値は無意味で、差だけが意味を持つ
  • パラメータ数ではなくモデルを順位づける。 3変数の56通りは全部 k=5k=5 なのに、AIC は 8.45〜129.01 の幅 120.6 で散らばる

AIC ≒ LOO は偶然ではない

どちらも同じハット行列 HH から出ます。

規準HH の使い方
AICtr(H)=k2k\mathrm{tr}(H) = k \to 2k
LOO(PRESS)diag(H)=hii(ei/(1hii))2\mathrm{diag}(H) = h_{ii} \to \sum\bigl(e_i/(1-h_{ii})\bigr)^2

hiih_{ii}第17回のてこ比です。PRESS の式とブルートフォースの LOO が浮動小数の精度いっぱい(誤差 1.6×10141.6\times10^{-14})で一致することを確認しました。

そして実務的に重要な違いがあります。AIC と LOO は決定的だが、K-fold は分割の乱数に依存します。 同一データで200通りの分割を試すと、5-fold は17種類、10-fold は11種類のモデルを返しました。AIC と LOO は常に同じ答えです。

一貫性 vs 効率性

状況勝つ規準実測
真のモデルが候補内で、係数がきれいにゼロBICn=4000n=4000 で的中率 0.992 vs AIC 0.425。予測誤差も BIC 勝ち
係数がゼロにならず裾を引くAICn=400n=400 で BIC が 1.673倍悪い

「AIC は予測が得意」という雑な言い方は、実験で崩れました。どちらが勝つかは真の構造次第です。

BIC =2logL+klogn=-2\log L + k\log n で、log8=2.079\log 8 = 2.079 なので n8n \geq 8 で AIC より厳しくなります。

AIC は尤度比検定の限界を差し替えたもの(この章の山場)

入れ子モデルなら、

2logL2+2k2<2logL1+2k1    2(logL2logL1)>2Δk-2\log L_2 + 2k_2 < -2\log L_1 + 2k_1 \iff 2(\log L_2 - \log L_1) > 2\Delta k

左辺は尤度比検定統計量そのものです。つまり

AIC = 棄却限界を χ0.952\chi^2_{0.95} ではなく 2Δk2\Delta k にした尤度比検定。BIC = 限界を Δklogn\Delta k \log n にしたもの。

対応する有意水準を計算するとこうなります。

Δk\Delta k125781020
AIC に対応する α\alpha0.1570.1350.0750.0510.0420.0290.005

「AIC は甘い」は Δk\Delta k が小さいときだけでした。χ2(Δk)\chi^2(\Delta k) の平均 Δk\Delta k・標準偏差 2Δk\sqrt{2\Delta k} に対し、限界 2Δk2\Delta kΔk/2\sqrt{\Delta k/2} 標準偏差ぶん上にあるので、Δk\Delta k が増えると相対的に遠ざかります。

逆転する最初の整数は Δk=8\Delta k = 8(0.042)です。Δk=7\Delta k = 7 は 0.051 でまだわずかに甘く、厳密な交差点は Δk=7.12\Delta k = 7.12境目を整数で丸めると向きを間違えます。

BIC(Δk=1\Delta k=1)の α\alphan=30n=30 で 0.065、n=100n=100 で 0.032、n=1000n=1000 で 0.0086、n=106n=10^6 で 0.0002。BIC は「nn とともに有意水準を下げる検定」で、これが一貫性の正体です。

検定との本質的な違いは3つあります。

  1. 検定は H0H_0H1H_1 が非対称/AIC は対称(「良いか」に答え「証拠が十分か」には答えない)
  2. 検定は入れ子必須で2つ限定/AIC は非入れ子でも3つ以上でも順位づけできる
  3. 目的が「偶然で説明できるか」vs「新データで当たるか」

共通の限界は、選択と推論を同じデータで兼用できないことです。

ステップワイズ法の「5つの罪」

実測
1. 多重検定の未補正ノイズだけ・n=50n=50・候補30本で 77.9% が「有意」(10.9530=0.7851-0.95^{30}=0.785 と一致)
2. 選択後の当てはまりR2=0.171R^2 = 0.171自由度調整済みでも 0.145(調整は最終の kk しか見ず、30本覗いたことを知らない)
3. 不安定性ブートストラップで65種類のモデル。ρ=0.7\rho=0.7 のとき真の効果が最大の x1x_1 の選択率が13%x2x_2 は84%)
4. 勝者の呪い真0.25 → 報告 0.513(真の値の2.05倍、選抜なしと比べれば1.84倍)。係数が膨らむのに標準誤差はそのまま
5. 探索の限界総当たり1024通りの AIC 最良と一致するのは 36.5% のみ。ただし主因は貪欲さでなく入り口が p<0.05p<0.05 で AIC と別の門だから(探索の仕方だけ変えると一致95%・AIC超過0.02で実害はほぼない)

5つは同じ種類の問題ではありません。 3つに分かれます。

何の問題か予測にも効くか
1・3選んだあとに検定・推論した(選択後推論)効かない
2・4選抜によるバイアスと選択のバリアンス効く(膨らんだ係数がそのまま予測式に入る)
5探索アルゴリズムの限界ほぼ効かない(AIC の超過は平均 0.02)

罪1・3は「選んだモデルを最初から仮説だったように報告すること」が原因なので報告の仕方で直りますが、罪2・4は予測にも効くので直りません

呪いの強さは「門の狭さ」で決まる

「真の係数0.25の変数の報告される EbE\lvert b \rvert ÷ 真の値」を並べるとこうなります(ボンフェローニの行は候補30本の別実験なので傾向の比較として見てください)。

手法
ボンフェローニ補正ステップワイズ(門を最も狭く)2.84
素のステップワイズ2.05
リラックス・ラッソ(選択集合で最小二乗を再フィット)1.52
ラッソ0.84

これを最初「門の狭さ」という1本の軸で説明しようとして失敗しました。リラックス・ラッソとラッソは同じ λ\lambda で選んだ同じ変数集合を使っていて門はまったく同じなのに、1.52 と 0.84 に分かれます。

軸は2本あります。

効き方
門の狭さ(データを見て 0/1 で選ぶか)狭いほど呪いが強い
縮小の有無(選んだあと縮めるか)縮めると呪いが弱まる

ラッソが免れるのは、選ぶのをやめて全員を縮めているからです。

そして多重性の補正は問題を解決しません。門を狭くすると偽陽性は治りますが(本物3本入りの別実験で 0.750→0.047)、罪4を悪化させ、検出力も壊します(真0.25の選択率 0.223→0.019)。

壊れ方の性質も違います。ステップワイズは 1.01〜2.98 と信号の強さで激しく変動し、弱い信号ほど酷い(いちばん知りたい変数でいちばん壊れる)。ラッソは 0.71〜0.84 で方向が常に「控えめ」でほぼ一様。どうせ外れるなら安全側に一様に外れるほうが扱いやすい、という実務的な差になります。

ラッソを変数選択として見る

ラッソ = L1L_1、リッジ = L2L_2 です(第19回の内容ですが、私は一度混同しました)。決め手は

リッジは係数をゼロにしないので、変数選択の手法になりえない。

覚え方は「絶対値は原点で折れている。その折れがゼロを作る」。

同一データでステップワイズと比べると、真の効果が最大の x1x_1 の選択率が 0.11 → 0.68x3x_3 が 0.40 → 0.87。ただし理由は「相関の扱いが賢いから」ではありません(相関ペアの一方だけを選ぶ傾向はラッソにもあります)。交差検証の λ\lambda が緩く、平均5.87本も入れているから拾えているだけです。

代わりに真の係数0の変数が 0.28〜0.54 混入します(交差検証の λ\lambda は予測最適で、選択最適ではない。AIC が BIC より多く選ぶのと同じ理屈)。失敗の仕方が正反対です。

同じ式で解ける他の問題

問題候補集合
変化点検出変化点の個数と位置
混合分布の成分数成分数
AR モデルの次数pp

すべて 2logL+(罰則)-2\log L + (\text{罰則}) の候補集合を変えただけです。変化点の実験では、真の [40, 90] に対し BIC が m=2m=2 で [40, 86]、AIC は m=10m=10 に暴走しました(ただし変化点の位置は正則なパラメータではないので、罰則の理論的正当化がこの設定では成り立っておらず、非正則性による罰則の過小も混ざっています)。

第32回

第31章 ベイズ法

変わったのは「何が動くか」だけ

頻度論ベイズ
θ\theta固定した定数確率変数(知識の不確かさ)
データ確率変数(取り直せる)固定(もう見た)

θ\theta が確率変数になった瞬間に「θ\theta が区間に入る確率は95%」と言えるようになります。分布が表しているのは θ\theta の物理的なばらつきではなく、自分の知識の不確かさです。

計算は 事後事前×尤度\text{事後} \propto \text{事前} \times \text{尤度} の一行だけです。

共役は「形が掛け算で壊れないこと」

尤度の族を決めたとき、事後分布が事前分布と同じ族に戻るような事前分布の族。

「二項分布と共役」は省略した言い方で、正確には「ベータ分布は二項尤度に対する共役事前分布」。分布と分布の関係ではなく、尤度の族と事前分布の族の関係です。

理由は式を3行並べれば分かります。π(θ)θa1(1θ)b1\pi(\theta) \propto \theta^{a-1}(1-\theta)^{b-1}L(θ)θx(1θ)nxL(\theta) \propto \theta^x(1-\theta)^{n-x}同じ骨格なので、掛けると指数が足されるだけです。

尤度共役事前分布事後分布
二項・ベルヌーイベータBeta(a+x,  b+nx)\text{Beta}(a+x,\; b+n-x)
ポアソンガンマGamma(a+x,  b+n)\text{Gamma}(a+\sum x,\; b+n)
正規(分散既知)正規正規(精度の加重平均)
正規(平均既知)ガンマ(精度に)Gamma(a+n/2,  b+(xμ)2/2)\text{Gamma}(a+n/2,\; b+\sum(x-\mu)^2/2)
指数ガンマGamma(a+n,  b+x)\text{Gamma}(a+n,\; b+\sum x)
多項ディリクレDir(α+x)\text{Dir}(\alpha+x)

共通の型は「事前分布のパラメータに十分統計量を足す」だけです。理由は第9回の指数型分布族で、指数の中で足し算になるからです。

注意:「共役が存在するのは指数型分布族のときだけ」は誤りです。一様分布 U(0,θ)U(0,\theta) は指数型でないのにパレート分布が共役です。逆向き(指数型なら構成できる)は正しいですが、構成できても名前のついた分布になるとは限りません(ロジスティック回帰がその例で、共役族は存在するが正規化定数が書けない)。

信頼区間と信用区間

同じデータ(n=20n=20 で6クリック)で計算するとこうなります。

方法区間
Wald(教科書の正規近似)[0.0992, 0.5008]
Wilson[0.1455, 0.5190]
Clopper-Pearson[0.1189, 0.5428]
信用区間(事前=一様)[0.1459, 0.5218]

Wilson と信用区間がほぼ一致します。 哲学が違うのに数字はほぼ同じ。だから

通常の条件下で nn が十分なら、ベイズにするかで結論の数字はほぼ変わらない。変わるのは「何と言い表せるか」だけ。

裏を返すと、差が出るのは小標本です。被覆率を厳密に計算すると、θ=0.05\theta=0.05 で Wald は 63.89%(95%と名乗って3回に1回以上外す)。x=0x=0 では Wald の区間が [0, 0] に潰れます

用語何の確率か固定されているもの
信頼区間区間の作り方の成績θ\theta
信用区間θ\theta そのものの確率データ

信用区間には等裾区間(左右2.5%ずつ切る)とHPD区間(密度が高い順に集める。幅最小)があり、単峰かつ対称なら一致します。

無情報事前分布は無情報ではない

θ\theta に一様分布を置いても、対数オッズ ψ=log(θ/(1θ))\psi = \log\bigl(\theta/(1-\theta)\bigr) で見ると 0 の近くに集まった山型になります(P(1<ψ<1)=0.462P(-1<\psi<1) = 0.462ψ\psi は全実数を動くので「ψ\psi について一様」は不適切事前分布になりますが、(8,8)(-8,8) に切れば一様なら 2/16=0.1252/16 = 0.125)。ロジスティック回帰の係数は ψ\psi の側なので実害があります。

これを解決するのがジェフリーズ事前分布 π(θ)I(θ)\pi(\theta) \propto \sqrt{I(\theta)} で、二項なら Beta(0.5,0.5)\text{Beta}(0.5, 0.5)変換不変性を数値で確認すると、θ\theta で作って変換した密度と最初から ψ\psi で作った密度の比がすべて 1.000000 で一致します。

そして実務上の落としどころ。

nn(率は常に30%)一様ジェフリーズ強い事前 Beta(20,80)\text{Beta}(20,80)最大の差
200.318180.309520.216670.10152
2000.301980.301000.266670.03531
10,0000.300040.300020.299010.00103

nn が数百を超えると事前分布を何にしても同じです。神経を使うのは小標本のときだけで、逆にそこでは選んだ理由を説明できなければなりません。

なお不適切事前分布(積分が発散する。ハルデーン Beta(0,0)\text{Beta}(0,0) など)は、x=0x=0 のデータで事後分布そのものが正規化できなくなります。

MCMC は2つの技術の合成語

MCMC=Markov chain歩き方+Monte Carlo数え方\text{MCMC} = \underbrace{\text{Markov chain}}_{\text{歩き方}} + \underbrace{\text{Monte Carlo}}_{\text{数え方}}

この分解が理解の鍵でした。私は最初アルゴリズムから入って完全に詰まりました。積み上げるとこうです。

  1. 事後平均や区間が知りたい → 積分が必要 → 高次元では不可能d=10d=10 でグリッド積分は317万年)
  2. でもサンプルがあれば数えるだけで済む(=モンテカルロ法)
  3. サンプルをどう作るか → 棄却法は高次元で死ぬd=20d=20 で採用率 8×10118\times10^{-11}%)
  4. 今いる場所の隣を歩くようにすれば動ける(=マルコフ連鎖)
  5. 足跡の分布は定常分布なので、定常分布=事後分布になるよう設計する
  6. その足跡を数える(2に戻る)

メトロポリス法

prop = cur + normal(0, step)               # ① 隣を提案
logr = log_target(prop) - log_target(cur)  # ② 比を取る → 正規化定数が消える
if log(uniform()) < logr:                  # ③ 確率 min(1,r) で受容
    cur = prop
chain[i] = cur                             # ④ 棄却でも記録する

②が仕掛けです。 比を取ると計算できない分母が約分で消えるので、正規化定数を知らないままサンプルできます。

歩き方は「登るときは必ず行く。下るときはときどき行く。

④を落とすとバグります。 棄却は「動かない」だけで、その場にもう1回滞在したことになります。

なぜ定常分布が事後分布になるのかは詳細釣り合い

π(x)q(xy)A(xy)=π(y)q(yx)A(yx)\pi(x)\,q(x \to y)\,A(x \to y) = \pi(y)\,q(y \to x)\,A(y \to x)

で、受容確率 min(1,π(y)/π(x))\min(1, \pi(y)/\pi(x))この等式が成り立つよう逆算して作られています

注意:詳細釣り合いは定常分布であるための十分条件で必要条件ではありません(決定的スキャンのギブスは満たさないのに π\pi を不変にします)。また詳細釣り合いだけでは収束せず、既約性と非周期性が別途必要です。

チューニングと収束判定

歩幅受容率ESS(58000サンプル中)
0.00598.5%34
0.1558.4%10,958
2.06.1%2,177

受容率が高いほど良いのではありません。 20〜50%が目安(1次元の理論的最適は約44%、高次元では約23.4%)。

収束判定は R^\hat R(Gelman-Rubin)で、鎖間のばらつき BB と鎖内のばらつき WW を比べます

R^=n1nW+BnW\hat R = \sqrt{\frac{\frac{n-1}{n}W + \frac{B}{n}}{W}}

判定基準は 1.01 未満(昔は1.1)。二峰分布の失敗例では W=0.476W = 0.476 に対し B=120,272B = 120{,}272R^=5.12\hat R = 5.12 でした。

複数の鎖が必須です。 失敗例の第1鎖だけ見ると平均 3.0006-3.0006・前半後半差 0.0204 で完璧に安定して見えるのに、第3鎖は +3.0110+3.0110 にいます。しかも反復を増やしても R^\hat R は下がりません(5.0 のまま)。

さらに罠として、4本まとめた平均は +0.0047+0.0047 で真値0とほぼ一致してしまいます(対称なので偶然打ち消し)。「平均が合っているから大丈夫」は収束の証拠になりません。

メトロポリスとギブスの使い分け

メトロポリス・ヘイスティングスギブスサンプリング
必要な準備事後分布の分子だけ各パラメータの条件付き分布が既知の分布
適用範囲ほぼ何でも条件付きが共役になるモデルだけ
棄却あるない(受容率100%)
調整提案の幅不要
動き方斜めに動ける軸に平行のみ
弱点高次元で歩幅調整が難しい相関が強いと極端に遅い

条件付き分布が書けるならギブス、書けないならメトロポリス。 同一問題で ESS は 7.8〜10.1倍の差でしたが、どちらも正しい答えに収束します(差は正しさでなく効率)。

ギブスは受容確率が恒等的に1になるメトロポリス・ヘイスティングス法の特別な場合として導けます。

ベイズファクターとリンドレーのパラドックス

BF10=P(データH1)P(データH0)BF_{10} = \frac{P(\text{データ} \mid H_1)}{P(\text{データ} \mid H_0)}

p値を 0.01 前後に固定したまま nn を増やすとこうなります。

nn標本比率両側p値BF10BF_{10}
200.85000.0025843.80
1,0000.54200.008641.35
1,000,0000.50130.009970.0348

p値は有意と言い、ベイズファクターは H0H_0 支持と言います。 種は「H1H_1(一様)は的が広すぎて当てても偉くない」こと。p値は「差があるか」、BF は「H0H_0H1H_1 のどちらがマシか」を見ています。

BF の弱点は H1H_1 の設定に敏感なことです。同じデータで H1H_1 を狭くすると 0.0348 → 6.184 と反転します。

利点は H0H_0 を積極的に支持できることBF10<1/3BF_{10}<1/3)。頻度論の「有意差なし=言えなかっただけ」という非対称性を解消します。ただし指定した H1H_1 と比べての相対的な主張です。

そして 事後オッズ=事前オッズ×BF\text{事後オッズ} = \text{事前オッズ} \times BF は、第2回の陽性的中率とまったく同じ形です。オッズは常に H1/H0H_1/H_0 の向きなので注意(私は一度逆にしました)。

階層ベイズと縮小

θiBeta(a,b),xi二項(ni,θi)\theta_i \sim \text{Beta}(a,b), \qquad x_i \sim \text{二項}(n_i, \theta_i)

「記事ごとに違うが、無関係でもない」を3層で書いたモデルです。Beta(a,b)\text{Beta}(a,b)個々の率ではなく「率の集団」を表します(第2層に置かれているのが目印)。

a,ba, b の読み方は2通りあります。

読み方内容
中心と集中度中心 a/(a+b)=0.173a/(a+b) = 0.173、集中度 a+b=20.2a+b = 20.2
疑似データ「あらかじめ aa 回成功・bb 回失敗していた」ことにする

事後平均は共役なので足すだけで、重み付き平均に書き換えられます。

x+an+a+b=nn+a+bwxn+(1w)aa+b\frac{x+a}{n+a+b} = \underbrace{\frac{n}{n+a+b}}_{w}\cdot\frac{x}{n} + (1-w)\cdot\frac{a}{a+b}

n=a+bn = a+b でちょうど半々になります。nn が小さい記事は全体平均に強く引かれ、大きい記事はほとんど動かないn=8n=8w=28.4%w=28.4\%n=2000n=200099.0%99.0\%)。

この書き換えは共役の副産物です。共役でない事前分布(ロジット正規)だと 10310^{-3} オーダーのずれが残り、厳密には成り立ちません。

効果は大きく、記事30本の平均二乗誤差が標本比率の 44.1%(表示20回以下に絞ると 34.3%)。全記事独立にも全記事プーリングにも勝ち、その中間が最良です(プーリングは 1.078倍で悪化)。

第19回のリッジ・ラッソと同じバイアス・バリアンストレードオフが、ベイズでは事前分布という形で出てきます。

階層ベイズと経験ベイズの差は区間幅に出る

経験ベイズ階層ベイズ
a,ba, b の扱い周辺尤度を最大化して1点に固定超事前分布を置いて分布として推定
計算2変数の最適化(軽い)MCMC
平均二乗誤差0.0022330.002259(差なし
区間幅(全30本)0.155890.16391(5.1% 広い
区間幅(n20n \leq 200.244750.26358(7.7% 広い

点推定はほぼ同じで、違いは区間幅です。経験ベイズは a,ba, b の不確実性を数え落とすので自信過剰になります。全分散の公式で分解すると

V(θ)=E[V(θa,b)]92.08%+V[E(θa,b)]7.92%V(\theta) = \underbrace{E[V(\theta \mid a,b)]}_{92.08\%} + \underbrace{V[E(\theta \mid a,b)]}_{7.92\%}

で、経験ベイズは第2項を丸ごと落としています(1点に固定すると V[E()]=0V[E(\cdot)]=0 になる)。

局外パラメータの周辺化(この編の統合点)

p(θiデータ)=p(θia,b,データ)p(a,bデータ)dadbp(\theta_i \mid \text{データ}) = \iint p(\theta_i \mid a,b,\text{データ})\, p(a,b \mid \text{データ})\, da\, db

興味のないパラメータ(局外パラメータ)を積分で消す操作が周辺化です。MCMC はこの二重積分を「引いて数える」で実行しています。

そして同じ構造が連載の各所に散らばっていました。

消したいもの結果効果
t分布(第7回σ2\sigma^2 が未知正規分布の混合裾が厚くなる
負の二項分布(第5回ポアソンの λ\lambda がばらつくポアソンの混合過分散になる
多重代入(第29章)欠測値代入間分散 BB が足される
階層ベイズ(第31章)a,ba, b が未知ベータ分布の混合区間が広がる
予測分布(第31章)θ\theta が未知二項分布の混合ベータ二項分布になる

t分布は正規分布の混合分布でした(ν=5\nu=5 で分位点が 2.0158 対 2.0150 と一致)。そして過分散=混合したから分散が増えたと読み替えられます。

一般則はこうです。

消すべきパラメータを最尤推定値のような1点に決め打つと、たいてい自信過剰になる。 正しく周辺化すると裾が厚くなる。

σ2\sigma^2 を固定して zz を使うと ν=3\nu=3 で区間が 38.4% 短くなります。それが t分布の存在理由でした。

ただし「必ず」ではありません。σ2\sigma^2事後平均で代入すると ν=3\nu=3 で逆に 6.7% 広くなります。代入する点の選び方で符号が変わります。

第33回

第32章 シミュレーション

この章の技術は2種類に分かれる

まずここを分けないと混乱します。この章には性質の違う2種類の技術が同居しています。

① 乱数を「作る」技術② 乱数を「使う」技術
正式な呼び方乱数生成法・サンプリング法モンテカルロ法
出力標本(数値の列)数値・分布・結論
逆関数法、棄却法、ボックス・ミュラー法、擬似乱数生成器モンテカルロ積分、重点サンプリング法、ブートストラップ法、並べ替え検定
成功の基準標本が正しい分布に従うか推定値が真値に近いか

①の出力が②の入力です。そしてMCMC は①と②の合体(マルコフ連鎖で作り、モンテカルロで数える)。

日常会話では両方まとめて「モンテカルロ」と呼ばれるのが混乱の原因でした。同じダーツ400万本から両方が出ます(個数を数えれば π=3.142276\pi = 3.142276、座標を使えば円内一様分布の標本 E[r]=0.666661E[r] = 0.666661・理論 2/3)。

なお円内一様分布は半径の密度が 2r2r に比例するので、「rr を一様に引く」は罠です(半径を4等分すると、最も内側の帯が全体の 6.25%、最も外側が 43.75% を占めます)。

逆関数法

X=F1(U),UU(0,1)X = F^{-1}(U), \qquad U \sim U(0,1)

1個の一様乱数で1個の標本が出ます。原理は「FF の傾きが密度そのもの」なので、傾きが急な区間に uu がたくさん落ちる、というだけです(指数分布で F(0.2)=0.819F'(0.2) = 0.819F(2.5)=0.082F'(2.5) = 0.082)。

区間の対応が1対1であることを200万個で確認すると、「uu が帯に入ったか」と「XX が区間に入ったか」の判定が全件一致しました([1,2] ↔ [0.6321, 0.8647]、長さ 0.2325)。

逆向きに使うのが確率積分変換で、F(X)U(0,1)F(X) \sim U(0,1) になります。Q-Qプロットとp値の正体がこれです。

FF が計算できるなら逆変換のメリットは何か」という疑問は半分正しいです。1変数の積分ならグリッド法が圧勝します(誤差 4.91×10104.91\times10^{-10}6.86×1026.86\times10^{-2}1億倍以上)。逆転するのは滑らかな例で d=4d=4 付近(確率のような不連続な量なら d=2d=2 まで下がる)で、分かれ目は「FF が計算できるか」ではなく「知りたい量が何変数の積分か」でした。

棄却法

覆い cg(x)f(x)c\,g(x) \geq f(x) から引いて、はみ出したら捨てます。覆いが全域を覆うなら採択率は 1/c1/cccf/gf/g の最大値(微分してゼロで出ます)。

覆いcc採択率
長方形 [4,4][-4,4](標準正規)0.3133
コーシー分布1.52030.6578
指数分布(半正規)2e/π=1.3155\sqrt{2e/\pi} = 1.31550.7602

覆いを分布に変えると効率が上がります。 なお長方形を狭くすると採択率は上がりますが([1,1][-1,1] で 0.8556)、裾が切れて別の分布になります。

そして高次元で崩壊します(立方体 → 単位球)。

dd採択率
30.5235
100.002490
15200万点から19点
202.46×1082.46\times10^{-8}(4063万回に1回)
501.54×10281.54\times10^{-28}

これが第33回の MCMC が必要になる理由です。

重点サンプリング法と MCMC の関係

この2つは「同じ目的の別手段」です。整理するとこうなります。

重点サンプリング法MCMC
共通の目的目標分布についての期待値・確率・積分をモンテカルロ近似する同じ
標本の作り方提案分布から独立に引く目標分布を定常分布に持つマルコフ連鎖を作る
補正の仕方target(x)/proposal(x)\text{target}(x)/\text{proposal}(x) という重みで補正バーンイン後の状態を重みなしで使う
標本の性質重みがある/標本間は独立重みがない/標本間に相関がある
得意なこと希少事象の領域を意図的に多くサンプリングできる高次元で動ける

用語の整理も押さえておきます。

用語意味
目標分布最終的に標本が従ってほしい分布
提案分布重点サンプリングでは標本を引く分布。MCMC では現在位置から次候補への移動方法

同じ目標分布(Beta(7,15)\text{Beta}(7,15))を2通りで扱うと、どちらも同じ答えに到達します。

同じ n=200,000n = 200{,}000 で比べます。

方法E[θ]E[\theta]P(θ<0.2)P(\theta<0.2)重み相関ESS
重点サンプリング(一様提案)0.318370.10901ありなし68,914
MCMC(メトロポリス)0.318140.10895なしあり36,933
厳密解0.318180.10851

この例では提案(一様)が目標とそれなりに重なるので重点サンプリングが有利です。提案が外れると重みが暴れるので、高次元では MCMC が現実的になります。

重点サンプリングは希少事象で真価を発揮する

Exp(1)\text{Exp}(1) を20個足した和 SS について P(S>100)P(S>100) を求めます。厳密値は 3.764894×10233.764894\times10^{-23}SGamma(20,1)S \sim \text{Gamma}(20,1) なので閉形式で出ます)。

素朴なモンテカルロは無力です。

方法nn推定値相対誤差
素朴なモンテカルロ法10510^50(命中0件)測定不能
素朴なモンテカルロ法10610^60(命中0件)測定不能
素朴なモンテカルロ法10710^70(命中0件)測定不能
重点サンプリング(θ=5\theta=510310^35.2751×10235.2751\times10^{-23}40.11%
重点サンプリング(θ=5\theta=510410^44.0641×10234.0641\times10^{-23}7.95%
重点サンプリング(θ=5\theta=510510^53.7262×10233.7262\times10^{-23}1.03%
重点サンプリング(θ=5\theta=510610^63.7446×10233.7446\times10^{-23}0.54%

平均 2.66×10222.66\times10^{22} 回に1回しか当たらないので素朴法は当然の結果です。重点サンプリングは1000回で桁が合い、10万回で誤差1%。 命中率が 0% から 47% に上がっています。

やっていることは指数傾斜です。Exp(1)\text{Exp}(1)Exp(θ)\text{Exp}(\theta) に置き換えて分布を右へずらし、重み

w=θdexp((11θ)S)w = \theta^d \exp\left(-\left(1-\frac{1}{\theta}\right)S\right)

で補正します。目安は θ=a/d\theta = a/d(提案分布のもとで E[S]=aE[S] = a になる傾き)で、100/20=5100/20 = 5

θ\theta の選び方はU字になる

P(S>40)=1.763029×104P(S>40) = 1.763029\times10^{-4}θ\theta を振ります(目安は 40/20=240/20 = 2)。

θ\theta推定値相対誤差素朴法比(1試行の分散)ESS率
1.0(素朴)1.80000×1041.80000\times10^{-4}2.10%1.0000 倍0.000167
1.51.75532×1041.75532\times10^{-4}0.44%0.0031 倍0.052489
2.0(目安)1.76481×1041.76481\times10^{-4}0.10%0.0009 倍(約1100倍改善)0.154949
3.01.75366×1041.75366\times10^{-4}0.53%0.0039 倍0.042382
6.01.36611×1041.36611\times10^{-4}22.51%3.2886 倍(悪化)
10.07.99491×1067.99491\times10^{-6}95.47%0.1405 倍0.000046

傾けすぎると素朴法より悪くなりますθ=6\theta=6〜8 で2〜3倍悪化)。そして ESS 率が最大になるのは θ=2.0\theta=2.0 で、目安 a/d=2.0a/d = 2.0 と一致しました。ESS は真値を使わずに計算できる診断指標なので実務で使えます。

なお ESS は教科書では重みだけで (wi)2/wi2(\sum w_i)^2/\sum w_i^2 と定義しますが、まれな事象では推定量への寄与 vi=wi1Av_i = w_i\mathbf{1}_A(命中しなかった試行は0)を使います。こうすると「命中したうえで重みが均等か」を1つの数で見られます。

ESS=(vi)2vi2\text{ESS} = \frac{\left(\sum v_i\right)^2}{\sum v_i^2}

重点サンプリングでいちばん危険な失敗

θ=10\theta = 10 の行を見ると、分散は素朴法の 0.1405 倍と「小さく」見えるのに、推定値は真値の 4.5%(相対誤差 95%) です。答えが外れているのに、分散だけ見ると成功したように見える。

同じ n=200,000n = 200{,}000 で40回反復して確かめました。

θ\theta推定値の平均実際の標準偏差報告される標準誤差実際÷報告真値から10%超外れた回数
1.0(素朴)1.7138×1041.7138\times10^{-4}2.981×1052.981\times10^{-5}2.916×1052.916\times10^{-5}1.02 倍17/40
2.0(目安)1.7630×1041.7630\times10^{-4}9.151×1079.151\times10^{-7}9.197×1079.197\times10^{-7}1.00 倍0/40
6.02.0001×1042.0001\times10^{-4}7.112×1057.112\times10^{-5}6.882×1056.882\times10^{-5}1.03 倍37/40
10.01.6052×1061.6052\times10^{-6}6.950×1066.950\times10^{-6}1.602×1061.602\times10^{-6}4.34 倍40/40

θ=10\theta=10 は報告される標準誤差が実際のばらつきの4分の1しか言わない。しかも40回中40回が外れる。

標準誤差が嘘をつくので、失敗を自動で検知できません。 素朴法(θ=1\theta=1)は不正確ですが標準誤差は正直(1.02倍)で、目安(θ=2\theta=2)は 1.00倍で40回すべて当てています。

これが重点サンプリングを使うときに最も気をつける点で、ESS のような真値を使わない診断指標を併走させる必要があります。

モンテカルロも次元の呪いを受けるのか

受けます。ただし現れ方が違います。

グリッド法の誤差は O(n2/d)O(n^{-2/d}) で、次元とともに収束の傾きが寝ます(実測で d=1,2,4,8d=1,2,4,8 に対し 2.001,1.001,0.503,0.261-2.001, -1.001, -0.503, -0.261)。

モンテカルロは常に O(n1/2)O(n^{-1/2}) で傾きが変わりません(実測 0.593,0.434,0.574,0.472-0.593, -0.434, -0.574, -0.472)。

次元の呪いは、モンテカルロでは傾きではなく「高さ」に出る。

σ/答え\sigma/\text{答え} の比が次元でどう動くかがケースによって違い、①平均の推定なら縮む ②積なら指数増加 ③まれな事象なら崩壊します。だから重点サンプリングが必要になります。

グリッド法との交差は滑らかな例で d=4d=4 付近(確率のような不連続な量なら d=2d=2 まで下がる)。d=20d=20 で軸10点なら 102010^{20} 回で、1秒10億回でも約3175年かかります。

分散減少法は「何を推定したいか」で効果が変わる

目標とする量層別対照変量
期待値9707倍1.37倍
中央値1.75倍1.23倍
90%点1.43倍
裾確率1.47倍

層別の 9707倍は n=105n=10^5 という一点での倍率です。素朴法の n1/2n^{-1/2} に対し層別は n3/2n^{-3/2} なので、倍率は nn とともに開きます

期待値だけ極端に効きます。 「分散減少法を使えば速くなる」と一般化できず、推定したい量の構造に依存します

主要な4手法は、対照変量法uu1u1-u の対称な乱数を使う。負の相関法とも呼ばれる同じ手法)・層別サンプリング制御変量法重点サンプリングです。

ブートストラップと並べ替え検定

どちらも既習ですが、区別を押さえます。

ブートストラップ法(第11回並べ替え検定(第15回
何をするか標本から復元抽出して統計量の分布を作るラベルを入れ替えて帰無分布を作る
目的区間推定・標準誤差検定
前提標本が母集団を代表している帰無仮説のもとでラベルが交換可能

ジャックナイフ法は1個ずつ抜いてばらつきを測る手法で、ブートストラップより古く計算が軽い代わりに、滑らかでない統計量(中央値など)で失敗します。

擬似乱数の注意

コンピュータの乱数は決定的な計算で作られるので、シードを固定すれば完全に再現できます。逆に言うと、

  • 論文やレポートではシードを明記する(再現性のため)
  • 周期がある(メルセンヌ・ツイスタは 21993712^{19937}-1 で実用上問題ない)
  • 並列計算では鎖ごとに独立なシードを使う(同じ列を2回使わない)

この連載でも、記事の数値と図が食い違う事故が何度か起きました。原因はすべて「別のスクリプトで別のシードから生成した」ことでした。図と本文の数値は同じスクリプトから出すのが唯一の予防策です。

第34回

試験で問われる計算パターン

第27章

  1. ACF の計算 … AR(1) なら ρk=φk\rho_k = \varphi^k。定常条件は φ<1\lvert\varphi\rvert<1。分散は σ2/(1φ2)\sigma^2/(1-\varphi^2)
  2. MA(1) の ACFρ1=θ/(1+θ2)\rho_1 = \theta/(1+\theta^2)ρ2\rho_2 以降は厳密にゼロ。ρ1\rho_1 の絶対値は 0.5 を超えられない
  3. モデルの識別 … コレログラムを見て「ACF が切れたら MA、PACF が切れたら AR」。切れる位置が次数
  4. 特性方程式1φ1zφ2z2=01-\varphi_1 z-\varphi_2 z^2 = 0 の根が単位円の外か。AR(2) なら φ1+φ2<1\varphi_1+\varphi_2<1φ2φ1<1\varphi_2-\varphi_1<1φ2<1\lvert\varphi_2\rvert<1 の三角形
  5. 差分の判断 … 単位根があるときだけ。DF検定は専用の臨界値(2.87-2.87 付近)

第28章

  1. 期待度数と X2X^2 … 行合計×列合計÷総計。自由度 (r1)(c1)(r-1)(c-1)
  2. オッズ比ad/bcad/bc のたすき掛け。信頼区間は log\log に直して SE=1/a+1/b+1/c+1/d\text{SE} = \sqrt{1/a+1/b+1/c+1/d}、戻すときは指数
  3. リスク比とオッズ比の変換OR=RR×(1p0)/(1p1)\text{OR} = \text{RR}\times(1-p_0)/(1-p_1)
  4. マクネマー検定(bc)2/(b+c)(b-c)^2/(b+c)。自由度1。a,da, d は使わない
  5. 調整済み残差(OE)/E(1pi)(1pj)(O-E)/\sqrt{E(1-p_i)(1-p_j)}±2\pm 2 を目安に判定
  6. マンテル・ヘンツェル推定量(aidi/ni)÷(bici/ni)\sum(a_id_i/n_i) \div \sum(b_ic_i/n_i)aa は曝露あり×イベントあり。曝露側の取り方で分子と分母が入れ替わる)

第29章

  1. 3分類の判定 … 「欠測確率が何に依存するか」を文章から読む。観測変数なら MAR、欠測値そのものなら MNAR
  2. ルービンの公式T=Uˉ+(1+1/m)BT = \bar U + (1+1/m)B。自由度は (m1)(1+Uˉ/((1+1/m)B))2(m-1)(1+\bar U/((1+1/m)B))^2(式は与えられることが多い)
  3. EM の E ステップE[y2x]=(E[yx])2+σyx2E[y^2 \mid x] = (E[y\mid x])^2 + \sigma^2_{y\mid x} の分散項を忘れない
  4. 削除と代入の影響の向き … 平均代入は分散を過小・相関を過小、回帰代入は相関を過大

第30章

  1. AIC・BIC の計算2logL+2k-2\log L + 2k / 2logL+klogn-2\log L + k\log nkkσ2\sigma^2 を数え忘れない(正規回帰なら p+2p+2
  2. AIC の差の解釈 … 差だけが意味を持つ。ΔAIC\Delta\text{AIC} が 2 以内なら区別しない、10 以上なら決定的
  3. PRESS(ei/(1hii))2\sum\bigl(e_i/(1-h_{ii})\bigr)^2hiih_{ii} が与えられれば LOO が一発で出る
  4. AICcAIC+2k(k+1)/(nk1)\text{AIC}+2k(k+1)/(n-k-1)n/kn/k が小さいとき使う
  5. どちらの規準を選ぶか … 「真のモデルを見つけたい」なら BIC、「予測を当てたい」なら AIC

第31章

  1. 共役の更新 … ベータ×二項は (a+x,  b+nx)(a+x,\; b+n-x)、ガンマ×ポアソンは (a+x,  b+n)(a+\sum x,\; b+n)足すだけ
  2. 事後平均・MAPBeta(a,b)\text{Beta}(a,b) なら平均 a/(a+b)a/(a+b)、最大値 (a1)/(a+b2)(a-1)/(a+b-2)a,b>1a,b>1 のとき)
  3. 信用区間 … 事後分布の分位点。等裾なら 2.5% と 97.5%
  4. 重み付き平均の形 … 事後平均 =w(標本)+(1w)(事前)= w\cdot(\text{標本}) + (1-w)\cdot(\text{事前})w=n/(n+a+b)w = n/(n+a+b)。正規なら精度の加重平均
  5. ジェフリーズ事前分布I(θ)\sqrt{I(\theta)} を計算する。二項なら Beta(0.5,0.5)\text{Beta}(0.5,0.5)、ポアソンなら λ1/2\propto\lambda^{-1/2}
  6. ベイズファクターP(DH1)/P(DH0)P(D\mid H_1)/P(D\mid H_0)。事後オッズ == 事前オッズ ×\times BF
  7. 用語の説明問題 … バーンイン・提案分布・受容率・R^\hat R の意味を言葉で。MCMC の実装は問われない

第32章

  1. 逆関数法の式を作るF(x)=uF(x) = uxx について解く。指数なら x=log(1u)/λx = -\log(1-u)/\lambda、パレートなら x=xm(1u)1/αx = x_m(1-u)^{-1/\alpha}
  2. 離散分布の逆関数法 … 累積確率の階段のどこに uu が落ちるかを数える
  3. 棄却法の cc と採択率c=maxf/gc = \max f/g(微分してゼロ)、採択率 1/c1/c、必要な試行回数の期待値 cc
  4. 重点サンプリングの重みw=f(x)/g(x)w = f(x)/g(x)。推定量は 1Mh(xi)wi\frac{1}{M}\sum h(x_i)w_i
  5. ボックス・ミュラー法2logu1cos(2πu2)\sqrt{-2\log u_1}\cos(2\pi u_2)sin\sin 版で2個作る

つまずきやすいところ

試験前はここだけ見返すのが効率的です。

よくある誤解正しい理解
非定常=トレンドがあるランダムウォークは平均一定でも非定常。 崩れているのは分散と自己共分散27
見せかけの回帰は相関が生まれる現象相関は生まれない(符号は五分五分)。標準誤差が 6.22倍過小になるのと β^\hat\beta に一致性がないのが正体27
nn を増やせば安全逆。 t\lvert t\rvertn\sqrt{n} で育つので集めるほど悪くなる27
正規性が崩れると起きる正規性は無関係。 ノイズを変えても棄却率 75〜77%27
φ=1\varphi=1 で急に壊れる崖ではなく坂。 φ=0.5\varphi=0.5 で既に 12.5% 棄却27
ACF と PACF は似たものACF は回帰の傾き、PACF は回帰の偏回帰係数27
PACF が切れたら MA(頭文字で覚える)逆。 PACF が切れたら AR、ACF が切れたら MA27
とりあえず差分を取るφ=1\varphi=1 のときだけ。 過剰差分は (1φ)/2-(1-\varphi)/2 の負の自己相関を作る27
DF検定に tt 表を使う誤り率 45.7%。専用の臨界値が必要27
独立性の検定と適合度検定は別の式式は同じ。 期待度数を仮説が与えるか周辺合計から作るかだけ28
どの指標でも大小関係は同じ逆転する。 リスク比は前者が大でもオッズ比は後者が大になる例がある28
オッズ比はリスク比の近似近いのは pp が小さいときだけ。ずれの上限は 1/(1p1)1/(1-p_1)28
ケース・コントロールでもリスク比が使える使えない。 確率が計算できない。オッズ比だけ抽出率が約分で消える28
有意なら交絡は関係ないp1053p\approx10^{-53} で逆向きの結論が出る。 nn を増やすと間違いに自信がつくだけ28
とりあえず層別すればよい割り付け後に起きたことで層別すると経路を潰す。 因果の判断が先28
均等割り付けならオッズ比は保たれる保たれない(非崩壊性)。率とリスク差は保たれる28
マクネマーとふつうの分割表の区別がつかない1人が表に何回登場するかを数える。 2回ならマクネマー28
ピアソン残差を ±2\pm2 で判定する分散が1に届かない。 調整済み残差を使う28
MAR かどうかを検定で確かめるMAR と MNAR は原理的に区別できない。 仮定して明示するもの29
欠測は埋めたほうがよい平均代入は削除より悪い。 被覆率が 81.5% に落ちる29
回帰代入は賢い方法相関を過大にする。表に数字を書くと分散がゼロになる29
多重代入は点推定の精度を上げるため標準誤差のため。 BB を測るのに複数回必要29
EM で標準誤差も出る出ない。 別途2階微分かブートストラップ29
λ=(1+1/m)B/T\lambda=(1+1/m)B/T は FMI大標本近似で別物(7.35% vs 7.60%)。m=5m=5 ではばらつきも大きい29
AIC の 222logL-2\log L22違う。 (+k)(k)(+k)-(-k) から来ている30
AIC の絶対値に意味がある差だけが意味を持つ30
AIC はパラメータ数を比べているモデルを順位づける。 同じ kk でも AIC は 120 の幅で散らばる30
AIC は常に予測が得意係数がきれいにゼロなら BIC が予測でも勝つn=4000n=4000 で的中 0.992 vs 0.425)30
K-fold は AIC より信頼できる分割の乱数で答えが変わる(200通りで17種類)。AIC と LOO は決定的30
AIC は甘いΔk\Delta k が小さいときだけ。 Δk=7\Delta k=7 でほぼ 5% 相当30
ステップワイズは多重性を補正すれば治る問題4(勝者の呪い)を悪化させ検出力も壊す。 治らない30
ラッソは L2L_2ラッソは L1L_1 リッジは係数をゼロにしないので変数選択にならない30
ベイズの分布は θ\theta がばらつくという主張自分の知識の不確かさ。 θ\theta の物理的なばらつきではない31
「二項分布と共役」=分布どうしの関係尤度の族と事前分布の族の関係31
共役は指数型分布族のときだけ存在「だけ」は誤り(一様×パレート)。逆向きは正しいが、実用的な形になるとは限らない31
信頼区間と信用区間は数字も違うWilson とほぼ一致する([0.145, 0.519] 対 [0.146, 0.522])。違うのは言い表せること31
一様分布は無情報対数オッズで見ると山型。 尺度に依存する主張31
受容率は高いほどよい20〜50%が目安。 98.5% だと 58000個が実質34個分31
トレースプロットを目で見れば十分1本では気づけない場合がある。 複数鎖と R^\hat R が必要31
平均が真値に合っていれば収束している対称なら偶然合う。 分布は間違っている31
詳細釣り合いは定常分布の必要条件十分条件。 決定的スキャンのギブスは満たさない31
ギブスはメトロポリスと別系統受容確率が1になる特別な場合31
経験ベイズは階層ベイズより精度が落ちる点推定はほぼ同じ。 差は区間幅(階層ベイズが 5.1% 広い)31
決め打つと必ず自信過剰最尤推定値ならたいてい。 事後平均で代入すると ν=3\nu=3 で 6.7% 広くなる31
p値とベイズファクターは同じ方向を向く巨大な nn で正反対(リンドレーのパラドックス)31
「モンテカルロ法」は乱数を作る技術乱数を使う技術。 作る側は乱数生成法・サンプリング法32
モンテカルロ法=長方形で囲んで数える囲むのは棄却法に固有。本質はサンプル平均で期待値を代用すること32
MCMC は数え方をマルコフ連鎖に応用したもの逆。 数える部分は不変で、変わったのは標本の作り方32
円内一様なら rr を一様に引けばよい半径の密度は 2r2r に比例。 内側6.2%・外側43.8%32
FF が計算できるなら逆関数法は不要1変数ならグリッドが圧勝(1億倍以上の精度)。逆転は滑らかな例で d=4d=4 付近32
棄却法の覆いは狭いほうが効率的採択率は上がるが裾が切れて別の分布になる32
モンテカルロは次元の呪いを受けない受ける。 ただし傾きではなく「高さ」に出る32
重点サンプリングは傾けるほど良いU字。 傾けすぎると素朴法より悪化(θ=6\theta=6 で 3.29倍)32
分散が小さければ成功θ=10\theta=10 は分散が素朴法の 0.14倍に見えて相対誤差 95%。 標準誤差が実際の4分の1しか言わない32
分散減少法はいつでも効く期待値なら9707倍だが中央値は1.75倍。 推定したい量に依存する32

この範囲で、連載がまだ扱っていないこと

正直に書いておきます。

未収録の項目
27状態空間モデルとカルマンフィルタ、スペクトル解析(ペリオドグラム・スペクトル密度)、GARCH型モデルによるボラティリティの推定、多変量時系列(VAR)とグレンジャー因果性、ベクトル誤差修正モデル(VECM)の推定、季節調整法(X-13ARIMA-SEATS)、構造変化の検定(Chow検定・CUSUM)、長期記憶過程(ARFIMA)、Ljung-Box 検定の自由度の選び方
283元以上の分割表の階層的対数線形モデルとモデル選択、順序カテゴリを活かす検定(線形傾向検定・Cochran-Armitage)、Cochran-Mantel-Haenszel 検定の一般形、一致度の指標(κ\kappa 係数・重み付き κ\kappa)、周辺同次性の検定(Stuart-Maxwell)、r×cr\times c 表のマクネマー拡張(Bowker検定)、正確な信頼区間(条件付き最尤・中央p値)、疎な分割表の漸近論
29連鎖方程式による多重代入(MICE)の詳細、傾向スコアを使った補正、逆確率重み付け(IPW)と二重ロバスト推定、パターン混合モデルと選択モデルの定式化、縦断データの脱落(dropout)の扱い、多重代入と多重比較の組み合わせ、代入モデルと解析モデルの整合性(congeniality)、打ち切りと切断の区別の一般論
30交差検証の理論(KK の選び方とバイアス・バリアンス)、時系列の交差検証(時間順を保つ分割)、情報量規準の導出(漸近展開と有効パラメータ数)、TIC・GIC・WAIC・WBIC、モデル平均化(AIC重み)、選択後推論(selective inference)の枠組み、安定性選択、ベイズ因子によるモデル選択との統合、CpC_p と AIC の厳密な対応関係
31変分ベイズ(VB)と平均場近似、ハミルトニアン・モンテカルロ法(HMC)と NUTS の中身、事後予測チェックによるモデル診断、WAIC・LOO-CV によるベイズモデル選択、ディリクレ過程などのノンパラメトリックベイズ、決定理論(損失関数と最適な点推定)、参照事前分布、ラプラス近似、ベイズ的な多重比較の扱い
32ボックス・ミュラー法の導出(第4回の変数変換との関係)、比の方法(ratio-of-uniforms)、Ziggurat法、擬似乱数生成器の統計的検定(TestU01・Diehard)、準モンテカルロ法(低食い違い量列・Sobol列)、ブートストラップの種類(パーセンタイル・BCa・tt ブートストラップ)と失敗する場合、ジャックナイフの疑似値、多段階の重点サンプリング(適応的重点サンプリング)、粒子フィルタと逐次モンテカルロ

とくにハミルトニアン・モンテカルロ法(HMC)はこの範囲の大きな空白です。Stan が一律に使っているのがこれで、勾配を使って効率よく歩くため、第31章で扱ったランダムウォーク・メトロポリスより高次元で圧倒的に有利です。準1級の範囲を超えますが、実務でベイズを使うなら避けて通れません。

変分ベイズも残っています。MCMC が「サンプルで近似する」のに対し、変分ベイズは「扱いやすい分布族の中で事後分布に最も近いものを探す」最適化問題として解きます。速い代わりに分散を過小評価する傾向があり、これも「1点に決め打つと自信過剰」の親戚です。

発展編はここで一区切りで、これで公式ワークブックの全32章が揃いました

振り返ると、この6章は「知らないものをどう扱うか」の作法が並んでいました。そして章をまたいで同じ構造が3回現れました。同じデータで2回使うと壊れる知らないパラメータを1点に決め打つと不確実性を数え落とすnn を増やすと悪化するものがある

とくに2つ目は、この編を通じていちばん効いた発見でした。第29章の多重代入が代入間分散を足すこと、第31章の階層ベイズが超パラメータを分布として持つこと、そして第7回で「分散を知らない罰金」として学んだ t分布が正規分布の混合だったこと。全部同じ操作(局外パラメータの周辺化)でした。連載の前半で別々に覚えたものが1つに繋がる感覚は、独学していていちばん報われる瞬間だと思います。

これで全32章の要点まとめノートが揃いました。試験前は6本のノートの「つまずきやすいところ」の表だけを見返す使い方を想定しています。

→ 連載の目次:統計検定準1級 独学記事インデックス


この連載は、うまくいった記録だけでなく詰まった箇所も含めて書いています。同じく準1級を目指している方、一度挫折した方の参考になれば嬉しいです。